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●おすすめ本●〜2004/08/23
【心臓を貫かれて】マイケル・ギルモア著・村上春樹訳:文春文庫
 
私の本の読み方は汚い。
寝転びながら、時には食事しながら、今はできないが電車の中で、と、ところかまわず読むため、邪魔になるカバーや帯などはすべてはずして読むためだ。特に、眠りに就く前に読むことが多いので、そのまま取り落として眠ってしまったりして、本はよれよれ。人にとても貸せないし(貸したことはあるが、事前に「すごく汚いよ。いい?いいのね?」と何度も念を押した)、読み終わったらブックオフへ売り払うなんてとてもできない。

その中で、上下巻とも珍しく本屋さんのカバーがかかったままの本がこの『心臓を貫かれて』だ。

話はむちゃくちゃに暗い。
1976年、アメリカ・ユタ州で2人のモルモン教徒を殺害し、当時復活したばかりの死刑を自ら要求した男性「ゲイリー・ギルモア」についてを、末の弟である著者・マイケルが書いた作品である。マイケルはローリングストーン誌などに音楽評などを書くライターだった。

マイケルの視点はゲイリーだけに留まらなかった。両親とその親の時代までさかのぼり、資料を集め、多くの関係者にインタビューし、自分の記憶もたどりながら、『ある家族の記録』のようにこの事件を書いていく。訳者の村上は訳者あとがきで『この人は、同業者として正直に言わせていただければ、ところどころで不思議に筆がよどんでくる。』と書いている。それはマイケルの文体ではなく、肉親について扱う問題が深刻であるほど、書くために必要だった儀式みたいなもの、と想像している。それを整えつつ訳したというが、それでも各所で文章がとぐろを巻いている。

フランクJr・ゲイリー・ゲイレン・マイケルの4人兄弟は、フランクとベッシーの間の子だ。

父・フランクはフェイという霊能者の母を持つ。フェイは若いころサーカスで働いていたことがあり、父親を当時人気者だった『フーディニ』であるとフランクに思い込ませ(作り話らしいが)、フランクは父に捨てられた息子として感じ続けたのか、次々に職を変え、ベッシーと出会ったときには詐欺で生計を立てる放浪の人生を送っていた。

一方のベッシーは戒律の厳しいモルモン教徒の貧しい一家に生まれた女性。美人で気が強く、ユタ州プロヴォという田舎町の中でははみ出し者としてみなされていたらしい。もっと自分に似合う華やかな世界があると信じて、カリフォルニアに出て、フランクと出会う。

この2人の過去、その親と祖先の歴史までさかのぼり、モルモン教についての考察も加えてストーリーは始まる。

マイケルだけが、4人の兄弟で年が離れていて、父フランクが詐欺師として放浪生活をしていた時代にただ独り加わっていなかったという。そのことでマイケル自身は逆に孤独感を持っていたという。

すさまじいまでの父フランクの家庭内暴力(マイケルだけが受けなかった)、母の狂気、そして一家につきまとう霊の存在。まさか!と思うような話がこれでもかと続く。でも、それにはすべて歴史に裏打ちされた理由があるのだ。

長男・フランクJrは老後の母を見る無気力な中年となり、
次男・ゲイリーは犯罪を重ねる凶暴な男となり銃殺刑となり、
三男・ゲイレンは飲酒と人の女に手を出す癖のために刺し殺され、
四男・マイケルは物書きとして成功したものの、家族を持つことができなかった。


主人公であるゲイリー・ギルモアは、日本でも報道されるほどの有名な犯罪者となる。その理由は、犯した犯罪ゆえではなく、死刑の復活したばかりのユタ州で、自ら進んで死刑を執行してほしいと訴えることで、『合法的に州に殺人を犯させることで社会に復讐を果たした』からだ。その死への想いは悲痛な叫び声のようだ。

家族の・血族の歴史とは、こんなにも子孫の人生に影響を与えるものなのか。逃れなれない血の絆。鳥肌が立つほど恐ろしい物語だ。
それでも、マイケルがこの本を書くために、長年会えなかった兄・フランクJrを探してめぐり合い、二人で膨大な時間を話し合って掘り起こしていった時間には、なぜかとてもほっとする温かさを感じる。それがせめてもの救いに思われた。
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